先日、得意先で朝9時半から打合せがありました。ところが当日の朝、起きたら9時でした。
あわてて先方に連絡を入れ、すぐに向かいましたが、1時間も遅刻してしまいました。
そして昨日、またその得意先で打合せがありました。
もう前回のような過ちは許されないと思い、目覚ましを2つセットし、持ち物も揃えて寝ました。
それなのに、目が覚めるとまた朝9時でした。そして1時間の遅刻です。
長く付き合いのある相手なので「大丈夫ですか」と笑ってくれましたが、信用は失ったと思います。
今まで真面目に働いてきて、遅刻したこともありません。それなのに、こんなことが2度も続いてしまいました。なぜこうなってしまったのか、本当に落ち込んでいます。
(41歳男性・印刷関連)

 
マセ : あらららら。大変でしたね。お答えしましょう。私もありました。
ミタ : はい、遅刻は私もありました。

マセ : ただ、なんて言うのかな。「時間を守る」ということがちゃんとできる人と、もともとできない人がいてね。まあ、後者はここではとりあえず置いといて。この方は真面目なんですよね。
ミタ : 今まで遅刻したことはないそうです。

年齢的なものもあるかも

マセ : えーと、この方は41歳。41歳って、けっこう微妙な年なんです。
ミタ : 厄年ですね。
マセ : そうだね。そういう年齢だから厄年って言うのかもしれないけど。

20代30代って、わりと緊張してるんです。それが40代にもなると、先輩になって、立場的にも上になる。良くも悪くも、ゆるむ時がある。
するとね、今までの自分とは違う自分が出てくる時があって。
そこで、思いもかけない失態をしてしまうことがある。
ミタ : ありますね。

マセ : それは自分の中では全く意識してなくて、無意識の中で起こるから、「なんでだろう、僕おかしくなったんじゃないか」って思うんだよね。妙な不安にさいなまれる。

しかも、同じ相手に同じ失敗を。不思議と、こういうことってありますよね。
会社対会社の場合は、担当が代わるくらいで収まる。個人だと、仕事を失っちゃうときもあります。

今回たまたま続いちゃったのは、アンラッキーとしか言いようがなくて。
この場合は言い訳も通じないですからね。もう「弁解の余地もございません」って言うしかないです。
ミタ : そうですね。

活きのいい病人

マセ : 遅刻エピソード、ではミタさんの話からどうぞ。
ミタ : えっと。そうですね、記憶にあるのは、20代半ばの時ですね。

9時始業の会社で。普段は8時50分には準備を整えて席につく、という真面目なOLをやってました。
そしたらある日、目が覚めたのが、8時50分。何が起こったのか分からず、もう大パニックです。
とりあえず、1分くらい家の中をウロウロしまして。はっと気づいて、会社に電話をして。
「病院に寄って行くので、少し遅れます」って言いました。
マセ : なるほど。

ミタ : すっごく急いで、それでも1時間半くらい遅刻して出社して。周りから「大丈夫?」とか言われて。普通に寝坊なんですけど。
で、普段どおり仕事してました。

そこへ、出先から戻ってきた部長が通りかかって。
私を見て、「おっ、今日は活きがいいね!」って言ったんですよ。
「どういう意味? 寝坊がバレてた?」って、心臓バクバクです。

マセ : 本当は病人のはずなのに。
ミタ : そうなんですよ。もしや部署の全員にバレてるんじゃないかと。もう疑心暗鬼です。

その後、洗面所で鏡を見て理由が分かりました。
大急ぎでメイクしてきたから、濃く塗りすぎてたんです、ほっぺのピンク。

マセ : あ、熱っぽい演出ね(笑)
ミタ : 偶然の産物です。それが逆に、めちゃくちゃ健康的な感じに仕上がってたという。ま、そんな事件です。
マセ : あはは。

12時間、間違えました

マセ : 僕はね、サラリーマンやってる時。パイオニアという会社で営業をやってて。
当時はすごく会社の調子がよくてね。ステレオといえばパイオニア、オーディオ製品といえばパイオニア。もう独壇場。

僕が担当していたのは、ある量販店。チェーン店の神奈川県地区。
普段から人脈づくりをするのも、営業マンの仕事。パイオニアの製品を売ってもらうために、店の人たちと仲良くなる。お客さんに「ステレオが欲しい」と言われたら、パイオニアを勧めてもらえるようにね。
ミタ : そういうことなんですか。

マセ : ある時、「新商品の説明会をしたいので、社員さんを集めてくれませんか」と店に相談したの。
その店の店長は、勉強会を積極的にやってくれる人だったから、すぐ受け入れてくれてね。

「いつにしましょうか」
「○月○日の8時半に来てくれる?」
「分かりました、お願いします」
で、やることになった。

その○月○日。朝8時35分くらいに、会社に電話がかかってきました。
「お前なにしてんだ、なんでそこにいるんだ」って。

「今日の準備、今してますけど」
「バカいってんじゃないよ、もう全員集まってるんだよ」。

彼らは朝の8時半、僕は店を閉めた後の8時半だと思っていた。
ミタ : えーっ。

マセ : 店の営業時間はだいたい10時から19時なんだよね。開店前の朝に勉強会とか、店を閉めた後に勉強会とか、そういうことをしていた。
僕はてっきり夜だと思い込んでたの。
ミタ : そうだったんですか。

マセ : 集まったのは、全部で20人以上。社員はもちろん、ヘルパーといって、三洋とかナショナルとか東芝とか、いろんなメーカーの人たちも来ていた。彼らは、自分の会社でもオーディオを作ってるのに、パイオニアの勉強会に出るなんて面白くないんですよ。でも来てくれていた。
なのに僕、まるまる12時間まちがえた。

ミタ : それは・・・。
マセ : もうねえ、真っ青だったよ。大失態もいいところだよね。
ミタ : ぞっとします。
マセ : なかなかやるでしょ、僕(笑)
ミタ : やりますね。なんか元気がでました(笑)

とにかく謝りました、そしたら

マセ : で、しょうがない。上司に相談してね。「すみません、僕ポカやっちゃって、すぐ謝りにいかないといけないんです。一緒に行っていただけませんか」ってお願いして。

その時の事務所が渋谷。店が横浜の戸塚だったかな。車で1時間半かかる。
菓子折り持ってね。電話があってからちょうど1時間半くらいで、向こうの店に着いたの。
ミタ : はい。それで?

マセ : もう店は始まっちゃってるからね。まず店長のところに行って。
「今日は申し訳ありませんでした」って謝ったら、店長は「ずいぶん早く来たな」って驚いて。
でもしばらく怒られて。「俺はいいけど、売り場の連中にちゃんと謝れよ」って。

で、売り場に行って、「大変申し訳ありません。実は夜と朝を間違えました」って謝った。
「バカじゃねえの」とか言われて。それでも謝って。ぐるっと一通り回った。

そしたら、逆に顔なじみになれてね。「しょうがねえな、まあそういう事もあるよ」って。
売り場の人たちも、お客さんからクレームを受けるから、みんな案外優しいの。すぐにちゃんと謝ればね。
だからそれほど大ごとにならずに済んだ。

改めて日を設定してもらって。夕方、ハンバーガーか何か、差し入れを持って行ってね。
まあ、みんな文句いわずに参加してくれた。結果として、その店での僕の売り上げは上がったんです。
ああ、こういうことなんだな、って。
ミタ : よかったですね。

マセ : うん、それが、「クレームっていうのは、上手に使えばうまくいくもんなんだ」って初めて知った時だった。
クレーム対応は、営業マン時代はずっとやっていたけど、身にしみて感じたのはその時。
あれが一番よかったね。案外、大遅刻は成功のもとなんです。

人生は、繰り返し

ミタ : そうですね。今まで真面目にやってきた人が大失敗して、逆に「そういう所もあるんだ」って分かってもらえるというか。違う面を見てもらえるというか。
マセ : そうなんだよね。

僕はその頃、たぶん天狗になってて。30歳くらいで、営業成績も良かったし、仕事も分かってきた頃で。トップセールスと言われるグループにもいて。生意気だったんだね。

確かにその一日は、僕の中ではプライドがボロボロだった。でも結果としてはすごく良かった。
神様の、おぼしめしかもしれないね。ちょっと殊勝にならないといけないんだな、って思ったし。
謙虚にね、やらないとね。
ミタ : 気をつけます。

マセ : 人生はみんなそれを繰り返してるんだろうね。ちょっと調子がいいと天狗になって。
どーんと、ぶん殴られるような事件が起きて。
その対処の仕方で、次のステップが良くなるんだと思う。その時はどん底状態かもしれないですけどね。

ミタ : そうですね。大抵は、なんとかなります。
マセ : そうそう。こういう時もありますよ。元気だして。

(2017年1月収録)

【今回のあなたに贈る1曲】
『Wake Up』 財津和夫 (1979年)
当時、セイコーのCMソングに使われました。
さわやかにおはよう、です。