そんな僕も勉強しました

ミタ : 勉強嫌いだったという話が出ましたが、いつから勉強するようになったんですか。

マセ : 中学から高校にかけては勉強しましたよ。高1で成蹊高校の編入試験を受けたから、一生懸命勉強して。入ってからも、国立理科系コースで、大学受験するつもりでいたからね。
でも、途中で気が抜けちゃって。関西から東京に来たから、さすがにいろいろ違いすぎたの。
上に大学があるんだから、それでいいや、って。

その後、コンサル会社に入ってからは、そりゃもう死ぬほど勉強しました。35歳から5年間くらいかな。独立するしかないと思って、学生の時よりずっと勉強しましたよ、ほんとに。

コンサル業って、勉強してなんとかなるもんじゃないんです。経験がものを言うところがあるから、勉強と経験があって初めて、いいものになるわけで。

知識は持ってても、自分が働いたことのない業界の現場にいきなり行って、現場で10年も20年もやってきてる方々のところでね。指導なんてできないですよ。現場の人に、かなうわけがないからね。
ミタ : はい。

マセ : じゃあどうするかと言えば、現場の問題点が見えるようになるトレーニングをする。これは世の中で共通なんです。
どの現場でも、同じような問題点がある。例えば、パン屋さんと、機械製造業。

パンを焼く工程と、機械を作ってる工程は違うから、同じ問題点があるようには見えないよね。
それでも、そこに同じ問題点を見いだせるような、トレーニングをするわけなんです。
ミタ : なるほど・・・。コンサルって、そういう事をしてるんですか。知らなかったです。

M社の優秀な彼

マセ : 高卒というと、思い出す人がいてね。
昔、パイオニアっていう会社のサラリーマンをしてた時。小売業M社の担当をやっててね。

パイオニアとM社は、その昔、けっこう仲が良くて。お互い、いい形で成長したの。
ナショナルとかの大手は、自分でショップを持ってるけど、パイオニアはショップがなかった。
当時はオーディオブーム。そこでM社は、パイオニアを前に出してくれた。
M社がいろいろやってくれるから、パイオニアもヒト・モノ・カネ、全部投入していた。
ミタ : そうだったんですか。

マセ : ところが、時代が変わって、オーディオブームもやや下火になってきて。
パイオニアとしても少し整理をしよう、となって、M社専門の部隊を作ったの。
それまで各営業所の営業マンを大勢つぎ込んでいたところへ、M社専門部隊が専従でやれば、人件費も浮く、ということなんだよね。その時に、僕はなぜか選ばれて。

この担当、本当に大変で。M社からは「今までのフォロー体制と全然違うじゃないか」って言われて。
そりゃそうだよね。専門部隊は営業マン3人。30店舗を3人で分けて、回るの。
ミタ : 3人?

マセ : 僕は中央線沿線の担当。主力店が新宿、錦糸町、中野、吉祥寺、立川、八王子って、けっこう大型店が多いの。新宿は旗艦店だから、もう大変。
ミタ : 気が遠くなりそうです。

マセ : その、僕の担当エリアの家電バイヤーが比較的若くて。この人が高卒だったの。
ミタ : はい。ようやく登場されました。

マセ : 前置き長くてすみません(笑)。彼は本当に優秀な人でね。僕と同い年くらいだったのかなあ。
一緒に仕事をしていて、なんとなくいろんな話をしてね。

M社は当時、スクラップ・アンド・ビルド、売場をどんどん改装していて、徹夜仕事がしょっちゅうあった。一晩で売場を全部作り替える。火曜の夜に商品を撤去して、水曜の明け方までに全部工事して。朝6時7時くらいから商品を並べて。10時にはオープンさせる。そんなのがしょっちゅう。
ミタ : ものすごくハードですね。

マセ : 各オーディオメーカーの営業マンが10人くらい応援に来て、みんなでオーディオ売場を作るの。
その家電バイヤーの彼は、「オーディオはマセさんに任せるよ」って言ってくれて、僕が仕切り役だった。他社の営業マンより多少仲が良かったのと、パイオニアの看板も大きかったから。

僕は、「みんなどこに置きたいか言って」って、各メーカーの希望を聞いて。
ソニ○さんはここ、ビ○ターさんはここ。で、みんなの希望通り並べて。
「パイオニアさん、隅っこだけどいいの?」って言われても、「そんなのいいから」って。

で、オープンして1週間くらい経つと、パイオニアが真ん中に座ってるんだよね。いつの間にか。
ミタ : えっ。ちょっとずつ出てくるんですか。

マセ : いやいや(笑)。ちゃんと入れ替えをしてるの。それでも他社は誰も文句言わない。とりあえず真ん中に座ればね。

最初から、「ソニ○さん、じゃあ一番下の左端ね」とか言ってたら、ソニ○の営業マンがやる気なくしちゃうでしょ。パイオニアはヘルパーを入れてるから。後で並べ替えればいいの。

ミタ : なるほど。他社に花を持たせる的な。
マセ : そう。レイアウトのまとめ方は任されてたからね。

本当に、そのバイヤーの彼は優秀でね。M社のバイヤーは基本的にみんな大卒だから、高卒のバイヤーは珍しくて。彼もけっこう悩んでたよね。「うちは大卒優先でさ」って。

その後、彼がどのくらい偉くなったのかは分からないけど。ほんと、優秀な人に高卒も大卒もないんだよね。
ミタ : そうですね。

(2017年4月収録)